山梨大学工学部

卒業生・修了生

工学部での思い出

刈込 喜大

カリコミ ヨシヒロ

 工学部での思い出というと、やはり学部4年から始まった研究室での活動が記憶に残っています。研究室では昨今話題のAIを使った画像認識の研究を行っていましたが、特に記憶に残っているのは文書作成指導とスライドの作成・発表指導です。この時間は専門的な知識の獲得だけでなく、私の物事の考え方や捉え方を大きく成長させてくれました。

 私が在学していたころ、コンピュータ理工学科では学部4年の年末と卒業前に自分の研究成果を発表していました。発表会ではA4用紙2枚に要約した予稿文書の提出と10分程度のスライド発表が求められます。私の所属していた大渕・古屋研究室では、この予稿文書作成とスライド作成に力を入れていました。発表のおよそ1か月前から準備を開始し、大渕竜太郎先生、古屋貴彦先生による予稿の添削とスライド作成指導が行われました。生来の怠け者の私は、当時、研究活動も予稿・スライド作成もなるべく省エネで乗り切ろうとしていました。しかし、この予稿・スライド作成指導は省エネで乗り切れるほど甘いものではありませんでした。

 先生に添削をお願いした第一版の予稿が修正要求で真っ赤になって返ってきたときを今でも覚えています。とんでもない研究室に入ってしまったと頭を抱えました。思わず投げ出したくもなりました。しかし、私の書いた文章の悪い点や不足している点が的確に指摘されており、自分の不備を認めざるを得ませんでした。また、ただ問題点を指摘するだけでなく、何が不足しているのか、どうすれば良くなるのかがコメントされており、先生が私たち学生の指導に多大な労力をかけてくださっていることが感じられました。表記ゆれや主語の曖昧さ、全体の構成の悪さなど様々な点が指摘されましたが、最も修正に苦労したのは研究の目的と伝えたいことを明確かつ端的に記述するように求められたことです。自分の研究内容をA4用紙2枚で収めるためには、説明の抽象度を上げて、大切な部分だけを強調して記述する必要があります。しかし、私は大局を捉えるのが下手で、細かい点を長々と記述してしまう癖がありました。第二版、第三版と修正を重ねるうちに先生からの修正要求の数自体は減っていきましたが、「大局を捉えた記述」という最大の問題には応えることが出来ないままでいました。3時間以上かけて文章を修正し、結局気に入らなくて元に戻すということを繰り返しては、自分の無力さを痛感して天井を見上げていました。

 結局、すべての修正要求に応えるより先に予稿の提出日を迎えてしまいました。修士課程に進学して2年間追加で研究活動に従事しましたが、予稿提出日より先に修正を終えるということは遂に出来ませんでした。しかし、研究室での予稿・スライド作成指導を通して物事の大局を捉えようと努力するようになりました。また、何をするにもその目的を意識するようになりました。ご自身の研究でお忙しいはずなのに、貴重な時間を使って指導してくれた先生には心から感謝しています。会社では、大学での研究とは全く異なる仕事に従事していますが、大渕・古屋研究室で学んだ文章・スライド作成技術と物の考え方は役に立ってくれると確信しています。

 最後になりましたが、山梨大学工学部100周年おめでとうございます。今日のAIの目覚ましい発展に伴い、AIやそれを組み合わせた工学への注目はより高まっていくと感じています。競争の激しい分野だと思いますが、山梨県唯一の工学部として素晴らしい研究成果と優れた人材の輩出を期待しています。学生の皆様におかれましては、その分野の専門家である先生方の指導のもと、素敵な時間を過ごせることを願っています。

 さて、この寄稿文には大渕先生、古屋先生による添削がありません。私の文章が人目に触れる前の最後の砦である両先生の添削がなくてとても不安です。両先生が読まれたら「構成が悪い」と修正要求で真っ赤にされる気がします。しっくりこなくて何度も書き直しているのですが、提出日が来てしまいました。予稿を書いていたときを思い出します。

2021年工学部コンピュータ理工学科卒業、2023年大学院修士課程修了